幼児退行とは?大人に起きる原因と症状を精神科訪問看護が解説

幼児退行とは、強いストレスや不安にさらされたとき、無意識に過去の発達段階へ戻って欲求を満たし、心のバランスを取り戻そうとする防衛機制です。大人にも起こり、急に怒鳴る、赤ちゃんのような話し方になる、閉じこもって眠り続けるといった形で表れます。病名ではなく心の反応なので、安心できる環境と、戻っている発達段階に合わせた関わりによって落ち着いていきます。
こんにちは。
福岡、北九州で精神科に特化している「セノーテ訪問看護ステーション」所長の入江です。
防衛機制と幼児退行について、訪問看護の現場で実際に関わった事例とあわせて説明します。
防衛機制とは?

防衛機制とは、不安やストレスが生じた際、無意識的に自分を守るための心の動きです。
精神障害を抱える人、特に統合失調症の方にとって、自我機能の一つであるこの防衛機制が症状に左右され上手く機能しない状況が多いことが考えられます。
例として、以下のような事例があります。
【事例】統合失調症の方の防衛機制はどう働く?

統合失調症では、症状の影響で防衛機制が本来の働きを失い、退行や万能感といった未熟な形で表面化することがあります。
今回のケースは、慢性の統合失調症であり、自閉的生活の中、病的退行が生じていることが伺われる方でした。
また、家族への対応の様子から万能感も併せ持っている事が推察される事例です。
あなたはこのような防衛機制の状況の中で、どのようなケアが必要だと思いますか?
このようなケースでは、生育歴からアセスメントし、どのような発達を遂げてこられたのかを的確に把握します。
退行が生じているのであれば、どの発達段階まで衰退してるのかを知ることが重要となります。
その上で「今をどのように考え、どうしたいか」という利用者ご本人の希望を尊重しながら、効果的なアプローチを実践していくことが大事です。
結論としてこのケースでは、代理自我的な関わりを重ね、活動性を向上させ、自閉的な生活からの脱却、ひいては成功体験につなげ自己効力感を向上させていくことを目指す支援を実施していくことが検討されました。実際にどのような順序で変化が起きたのかは、後述の壮年期男性の事例で具体的に示します。
幼児退行とは?大人が幼児退行する原因は?

幼児退行とは、ストレス下で過去の発達段階に戻り、欲求充足を図る無意識の防衛反応です。乳児期や幼児期など、両親や兄弟に守られていた頃、楽しかった頃に心を戻すことで、心のエネルギーを回復しようとします。
人は葛藤や脅威といった体験をしたとき、不安や罪悪感、抑うつなど不快な感情体験をします。これを弱めたり、避けることによって心のバランスを保とうとする働きが防衛機制です。
大人の幼児退行が起きる背景には、幻覚や妄想、パニック症状、重度のうつ状態といった精神的な危機状況があります。心のバランスを保つ働きである防衛機制が上手に機能せず、負荷が本人の処理能力を超えたとき、周囲が理解し難い反応として表れます。
代表的なサインと、その背景、周囲の対応を整理しました。
| 行動の特徴 | 背景にある心理 | 周囲の対応 |
| 急に大きな声で怒鳴る、手が出る | 不快な感情を言葉にできず、身体や声でしか表現できない状態 | 言動の内容を正面から否定せず、安全を確保したうえで落ち着くまで待つ。声のトーンを下げ、目線を合わせて短く伝える |
| 赤ちゃん返りした話し方になる | 守られていた時期に戻ることで安心を得ようとしている | 子ども扱いを責めたり笑ったりせず、求めている安心感を満たす。できることまで肩代わりしない |
| 閉じこもってひたすら眠る | 外界の刺激から身を守り、心のエネルギーの消耗を止めようとしている | 無理に外へ連れ出さず、まずカーテンを開けるなど生活リズムの手がかりを作る |
稚拙なふるまいが目立つため問題行動と受け取られやすいものの、これらは本人が意図して行っているものではありません。どの発達段階まで戻っているかを見極めることが、関わりの出発点になります。発達段階の見方はエリク・エリクソンのライフサイクル論、防衛機制の分類はアンナ・フロイトの整理を参考にしています。
【事例】幼児退行した人にどう関わればいい?

幼児退行した人への関わりは、安心感と信頼関係づくりから始め、退行している発達段階に合わせて生活を手伝い、小さな達成を積み重ねる順序で進めます。
今回のケースは、壮年期男性、慢性の統合失調症であり、自閉的な生活の中、感情を言語化できず怒鳴り声や身振りといった非言語的コミュニケーションが目立ち、着衣も下着のみで着替えもできずに髭は伸び放題で生活を送られている状況です。著しい退行、すなわち病的退行が伺われる方でした。
看護としてはまず、安心感を得て頂く事、信頼関係の構築として常に目線を合わせ本人のペースを脅かさない関わりを継続しながら、「味方であること、力になりたいこと」を丁寧に伝えることから始めました。
閉じこもりの生活環境自体がこころのバランスを保つ力を弱めるため、訪問の度にカーテンを開け日の光を部屋に入れ時間の認識ができるよう働きかけ、着衣や髭剃りなど自分で行えない部分の手伝いをさせて頂きました。
焦らず慌てず対応することを心掛け、次第に自分でできることが増え、外に気を向けることができ、今では散歩を取り入れながら関わりを継続させて頂いています。
どのくらいで落ち着くかは、症状の状態や生活環境によって変わります。訪問のたびに同じ関わりを繰り返し、本人が「この人は自分を脅かさない」と感じられる段階を経てから、身支度、外への関心、外出という順に変化が進みました。日数で区切るより、この順序を飛ばさないことが回復を早めます。
退行した状況下では、その方がどの発達段階まで退行しているかを判断し、その発達段階に応じた看護が必要と考えます。
目標を大きく設定せず、その方がまず、ほんの少しの努力から達成できる「ショートゴール」を立て、賞賛を重ねながら心の回復を目指すことが重要と考えます。
健全な退行と病的退行の違いは?

健全な退行と病的退行の違いは、自分の意思で元の状態に戻れるかどうか、そして生活が保たれているかどうかにあります。
幼児退行は未熟な防衛機制と一般的に言われますが、普段生活していく中で、私たちも幼児退行を無意識に取り入れながら自分をコントロールしています。
例えば、ディズニーランドやUSJで我を忘れて子供のようにはしゃぐことは、健全な退行です。遊び終われば元の役割に戻れますし、仕事や家庭の生活が損なわれることもありません。
社会生活での積み重なるストレスから身を置き、リフレッシュすることでまた頑張るためのエネルギーを回復しています。
一方、病的退行では本人の意思で戻ることができず、身支度や食事、対人関係といった生活機能が低下した状態が続きます。前述の事例のように、着替えや整容ができず閉じこもりが続く状態がこれにあたります。
支援する側が健全な退行をしながらコンディションを保つことは、利用者への関わりの質を保つ前提だと考えています。
幼児退行について学ぶ人・支える家族が次にできることは?
学生の方であれば防衛機制の種類と発達段階をセットで押さえること、ご家族であれば行動を正そうとする前に安心できる環境を整えることが、次の一歩になります。
ご家族だけで抱え込むと、怒鳴り声や閉じこもりに対して説得や叱責を重ねてしまい、本人の不安がさらに強まります。対応に迷う段階で、訪問看護や主治医に相談してください。
私たち福岡にある精神科に特化した訪問看護「セノーテ訪問看護ステーション」は、利用者の方を支え、変わっていかれるその経過の中で喜びを得ることができる職場です。
求人も随時受け付けていますので、気軽に連絡してください。
執筆者
セノーテ訪問看護ステーション
所長 入江 正光
精神科に特化した訪問看護に従事し、統合失調症をはじめとする精神疾患をもつ方の在宅支援と、スタッフの教育・同行指導を担当しています。本記事は訪問看護の現場で担当した事例をもとに執筆しています。
公開日:2019年8月29日(公開後、内容を見直して加筆・修正しています)
参考
- ・アンナ・フロイト『自我と防衛機制』(防衛機制の分類)
- ・エリク・エリクソン ライフサイクル論(発達段階の考え方)
関連記事(当ステーションブログ内)
- ・統合失調症の方への精神科訪問看護の関わり方
- ・防衛機制の種類(抑圧・投影・合理化など)の整理
- ・精神科訪問看護の利用方法と対象となる方
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